尼崎医療生協への苦言はずいぶん反響を呼んだようで、さんざんな書かれ方で当初は閉口した。
しかし、一方的な誹謗中傷も数多く見ると、ほほえましくさえ思えてくるから変なモノだ。
顔のみえないことをいいことに、愚弄の限りを尽くす。
そして、閉ざされたギルドの中で罵りを楽しむことに快感を覚えているのだろう。
本人は気持ちいいのかもしれないが、私には、彼らは冷笑の対象でしかない。
それでも、医師という職業は、聖職という意識に揺るぎはない。
それは、批判を顧みず、明らかに顔を出して、自らの論を世に問う、小松秀樹氏のような医師も一方で、多数存在する。
ネットでも、実名を公表して、コメントをかわした医師も一人おられた。
m3に集う医師がいわゆる人を貶めることに余念のないネット医師といわれる人間ばかりではない。
医療技術や臨床例の意見交換など、有意義な使い方をしている向上心の高い医師が圧倒的多数だろう。
しかしながら、「ネットで暴走する医師たち」で取り上げられた、ネット医師の暴言は、医療の崩壊を助長こそすれ、医療を支えることには決してならないだろうと思った。
医師とて人間だが、侮蔑と野卑なことばが命を預かる人間の口から出たら、その信用は失われる。
そんなネット医師へのオマージュとして書かれたのが本書だが、果たして、鳥集徹氏の目的?は達成されたのだろうか。
そういう意味では、「医療の限界」「医療崩壊」の著者小松秀樹氏のやりとりは、いただけなかった。
彼は、ネット医師でもなく、医療の限界では、限界そのものを逃げ口上にするネット医師のバイブルの趣よりも、むしろ、医療崩壊からの立ち直りをどうしようかと懸命に思索しようとしている姿に感動した私としては、いいがかりの域を出ていなかったように思う。また、帯封に赤字で「医療崩壊」著者小松秀樹氏取材回答文3000字掲載というのは、出版社の意図があるのだろうが、本の趣旨とは関係のない小松氏を利用しているようで、違和感があった。
それは、さておき、ネット医師の粗暴性を確認するには役だったのも事実。
akagama氏とのやりとりや、オーク住吉産婦人科中村嘉孝氏へのインタビューはなるほどと思った。
akagama氏のブログを読んだことのある人は、同感すると思うが、やっぱりそういう人物だったのか。
以下、抜粋 鳥集氏はakagama氏に取材を申し込んだようだが、こういう返事だったそうだ。
残念ですが……。
こんな身体でも、忙しくさせていただいている、身の上ゆえ、時間をとることができない状況。察していただければ、恐縮でございます。
ま~、ネット医師なんて、取材の対象にならんですよ。くそすぎて。
ではまた。
akagama氏は毎月20~30回ブログを書いており、07年3月にはなんと95回も更新している。取材を申し込んだ08年10月も、更新回数は33回にも及んでいる。これほどブログを書く暇があるなら、取材に応じる時間ぐらいはありそうに思うのだが……。マスゴミ相手に思う存分毒を吐いてほしかっただけに、残念だ。
まぁ、ブログを沢山書いてるから暇とは言えませんが、ネット医師はリアルが苦手なのかもしれませんね。
鳥集氏は、さらにネット医師を分析する。
医師を批判する者に対して、彼らが過剰なまでに攻撃的な言葉を投げてくるのは、今にも折れそうな自分の心を守らんがための、一種の心理的な防御反応なのではないか-穿ちすぎなのかもしれないが、私はそんなふうに感じた。
(略)私が医師によるネット上の誹謗中傷問題について話をふると、中村院長は大阪弁で語気を強めてこうまくし立てた。
「医者だって、もっと多くの誹謗中傷を受けていますよ。だけど、現実問題として対抗不能なんです。被害者だと言われると、なんにも言えなくなる。絶対的弱者を強調されると、どうしようもない。本音を言えば(被害者や支援団体の言動に対して)いい加減にしろと思ってます。だけど、医者は技術職だから、言葉を持っていない。誹謗中傷してしまうのは、言葉で商売をしていないから。医者は言葉をもっていないから、追い詰められてしまうんです。文系のトレーニングを受けてきた人間とは違うんです」
と、ネット医師に同情の念もわかなくもない。
しかし、ブログに名指しで罵詈雑言を並べられ、ノイローゼになったと訴訟を起こせば、あっという間に、ブロガーを特定することなど簡単にできるかもしれないわけで、実際、そういうことが起こりうる状況になれば、加害者としてのネット医師が恐怖を感じるのは当たり前だろう。罵詈雑言を浴びせるような医師の診察などだれも受けたくないし、社会的制裁を受ける覚悟などないのだから。そういう意味では実名を晒している方は、ハードル一つ乗り越えてるので、ある意味楽です。
しかしながら、結局ネット医師との関係については、小松秀樹氏の示唆が一番、しっくりした。小松氏は
瞬間反応するような感情的な無記名の言葉が反乱することの問題は、世界中で起きております。韓国や、中国では、国家を危うくしかねない大問題になっています。これをどのように制御するのか私には分かりません。規範を唱えることでこれを取り締まることは不可能ですし、別種の対立を生む可能性があります。どの社会にも変な人はいるので、一部の人たちの発言を理由に、ある集団全体を非難することも無理があります。関係者をさらに不幸な状況に引きずり込みかねません。
たぶん、規範からではなく、どのような制御方法が存在するのかから出発すべきではないでしょうか。日本だけを想定した制御方法も実効性はないと思います。
この小松氏の言葉には、鳥集氏も異存はなかったようで、「読まないというのは、かなり有効な戦略、というのは、ネットで批判されることもある私にとっても共感できる意見だと思った」と同意している。この点については、知らぬが花ということかなぁ。人間、悪口を直接言われるよりも、陰で、言われる方が傷つくものだ。しかしながら、最近は、顔のない匿名希望が必死で強弁する文言を見るたびに、中村医師の分析や小松氏の指摘を思うと、可笑しくて、上から目線で、読めるようになってしまった。
結局、ネット医師など取るに足らぬ存在と笑い飛ばすに限るか。しかしながら、ネット医師がターゲットとするマスコミがこういったネット世論を意のままに悪用するケースが増えつつあり、この間も、偽装ブログを使った番組が問題になっていた。ネット医師の文言を悪用して、さらに医師の処遇が悪くなる危険性の方が反対に怖い。何でもネタにするのがマスコミであり、もし、医師ブログによって、自殺者でも出たら社会問題化、ブログ医師狩りなんてとんでもない事態が起らないとも限らない。韓国では、ネットで中傷された芸能人の自殺をきっかけに「サイバー名誉毀損罪」と「サイバー侮辱罪」が新設され、9年以下の懲役が科せられるようになったそうだ。権力の介入を許すような言論の自由奔放は許されない。
サイバー侮辱罪ができるまで
ネット上の罵詈雑言が結局権力支配誘導してしまう危険な例
芸能人ブログを集中攻撃、「炎上」させる…18人立件へ
著名人などのブログに悪意の書き込みが集中して閉鎖に追い込まれたりする問題で、警視庁は、男性タレント(37)のブログを攻撃した17~45歳の男女18人について、名誉棄損容疑で刑事責任を追及することを決めた。
「殺人犯」などと事実無根の書き込みが繰り返されたという。警察庁によると、「炎上」と呼ばれる現象を引き起こす集団攻撃の一斉摘発は初めて。匿名を背景にエスカレートするネット世界の“暴力”に歯止めをかける狙いがある。
警視庁関係者によると、18人は大阪府高槻市の国立大職員の男(45)、千葉県松戸市の男(35)、札幌市の女子高校生(17)ら。すでに自宅などを捜索してパソコンや携帯電話のデータを押収、近く同容疑で書類送検する。
被害に遭ったのは、テレビのお笑い番組などで活躍していた男性で、18人は昨年1~4月、男性が開設したブログ上で、少年4人が殺人罪などで実刑
判決を受けた東京・足立区の女子高生コンクリート詰め殺人(1989年)に、男性が関与したといういわれなき中傷をした疑い。「人殺しが何で芸人やるん
だ」「死ね、犯人のくせに」「てめえは何をしたと思ってるんだ」――などの書き込みが、この短期間に数百件に上ったという。
きっかけは約10年前、所属芸能事務所が「足立区出身の元不良」とのうたい文句で男性を売り出したこと。その後、インターネットの掲示板に、男性
を犯人扱いする書き込みが始まった。所属事務所は2002年、ホームページ上で「事件とは全く無関係」と告知したが、効果はなかった。
男性のブログは中傷を消しても消しても、後から書き込まれる状態が続き、昨年4月、男性はブログを書き込み禁止にするとともに、「タレントとしての名誉が著しく傷つき、芸能活動に重大な支障が生じた」として、中野署に被害届を提出した。
警視庁で通信記録を調べたところ、数十人が書き込みをしており、その中から執拗(しつよう)に悪質な書き込みを繰り返していた18人を特定した。
ネット上での中傷被害は年々増加しており、警察庁によると、全国の警察への被害相談件数は07年、過去最高の8871件。08年も上半期だけで5482件に上っている。
【ブログ炎上】匿名でも本人特定 接続履歴から立件 (1/2ページ)
2009.2.6 23:14
お笑い芸人のスマイリーキクチさん(37)のブログが、「人殺し」などと中傷する書き込みで“炎上”した問題で、警
視庁が名誉棄損容疑で立件対象とした男女18人は、プロバイダー(接続事業者)に残された履歴などから書き込み主として特定された。匿名性が高いネット社
会でも書き込み主の特定は可能で、プロバイダー側の情報開示への協力も進む。一方、不特定多数が利用するネットカフェでは特定が難航するケースもあり、業
界側の協力が不可欠となっている。
スマイリーさんの事件で、警視庁が書き込み主の特定に活用したのは、ネット上の“住所”を示す「IPアドレス」。ブログへの書き込みで残されたアドレスからプロバイダーや携帯電話会社を特定し、履歴の情報開示を受けて個人にたどりついた。
プロバイダー側は「通信の秘密」を理由に情報開示に消極的だったが、殺人や爆破予告の社会問題化に伴い、捜査当局に協力。平成14年にはプロバイダー責任
制限法が施行され、被害者個人がプロバイダーに情報開示を求めることも可能となり、ネット上の人権を守る動きは高まっている。
スマイリー
さんを中傷したのは数十人に上るが、摘発対象の18人は自宅や職場のパソコン、携帯を使っていたことが動かぬ証拠となった。IT業界に詳しいコラムニスト
の宮脇睦さんは「摘発してくれと言っているようなもの。名誉棄損の意識がなく、(殺人に関与したという)事実無根の書き込みを信じ、ゆがんだ社会正義で後
に続いている」と指摘する。
一方、ネットカフェでは接続場所が判明しても、個人の特定に至ることが難しい。利用者を特定するためには、「最終的に防犯カメラや利用者リストが必要」(警視庁幹部)だからだ。
このため、警視庁は東京都内のネットカフェに利用者の身分確認の徹底を求めているが、足並みはそろっていない。
業界全体の半分にあたる約1400店舗が加盟する「日本複合カフェ協会」では、約9割が身分証の提示と会員制を導入。だが、非加盟の店舗では「一回だけの利用者も多い」「自由な空間を保たないと集客に影響が出る」などとし、身分確認の徹底に難色を示す。
捜査幹部は「今後、悪意のある書き込みをしたい利用者が、身分確認のない店舗に流れることも予想される」と警戒している。